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広島地方裁判所 平成9年(行ウ)27号 命令

主文

右当事者間の頭書事件について、原告らの訴状を却下する。

理由

一  本件訴え(分離分)は、被告が、平成九年三月二七日付けで、訴外恋文字開発株式会社(以下、「訴外会社」という。)に対し、森林法一〇条の二に基づいて行った林地開発行為の許可処分及び都市計画法二九条に基づいて行った開発行為の許可処分(以下、「本件各処分」という。)は、右各許可処分に基づく訴外会社の開発(ゴルフ場建設)によって、原告ら(分離分三一三名)の水利権もしくは安全な飲料水を安定的に確保する権利、入会権、環境権等が侵害されるにもかかわらずなされたもので違法であるから、本件各処分の取消を求めるというものである。

二  そこで、本件訴え(分離分)の提起について、原告らが納めるべき手数料の額について検討する。

1  訴え提起の手数料の額は、訴訟の目的の価額(以下、「訴額」という。)に応じて、民事訴訟費用等に関する法律により算出された額とされているが、非財産権上の請求に係る訴えの訴額は九五万円とみなすこととされている(擬制訴額、同法四条二項)。また、一の訴えにより数個の請求をする場合には、原則として、その訴額を合算する(民事訴訟法二三条)が、数個の請求であっても、各請求についての利益が別個独立のものといえないときには、一つの請求についての訴額に吸収されるものと解される。

2  これを本件についてみるに、原告らの主張する前記権利に基づく請求は、非財産権上の請求というべきであるから、一請求当たりの目的の価額は金九五万円とみなされる。

そして、本件訴え(分離分)は、三一三名の原告が本件各処分の取消を求めるものであり、一の訴えにより六二六個(原告数に請求数を乗じたもの)の請求を併合して提起されたものであるところ、原告ら(分離分)の主張する前記各権利ないし利益(別紙意見書記載のとおり)は、各原告(分離分)らそれぞれが亨有し、その行使によって原告ら(分離分)の得ることのできる利益も、個々の原告(分離分)ごとに別個独立に帰属するものと解するのが相当である。そうすると、原告ら(分離分)の右各請求についての利益は別個独立のものというべく、したがって、一つの請求についての訴額に吸収される場合には該当しないものというべきである。

してみれば、訴額の算定に当たっては、各原告(分離分)ごとの訴訟の目的物の価額を合算するのが相当である。

これと見解を異にする原告らの主張(別紙意見書のとおり)は、採用することができない。

三  以上によれば、本件訴え(分離分)の訴額は、金九五万円に請求数二及び原告数(分離分)の三一三を乗じた金五億九四七〇万円であり、右価額に応じた訴え提起の手数料の額は金一九〇万二六〇〇円である。

そこで、頭書事件分離前の原告ら三一四名に対し、既に納付済みの金一万四九〇〇円を除いた金一八九万三七〇〇円(金九五万円に請求数二及び右原告三一四を乗じた金五億九六六〇万円を訴額とし、これに応じた訴え提起の手数料の不足分)の納付を命ずる補正命令を発したが、右原告らのうち、原告奥田眞理子は、自己の請求に対応する手数料を納付したものの、その余の原告ら三一三名(分離分)は、右補正命令に定めた期間内に、訴え提起の手数料を納入しないから、民事訴訟法二二八条二項に従い、右原告ら三一三名分(分離分)の本件訴状を却下する。

(裁判長裁判官 松村雅司)

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